「今宵あなたと」
(Episode:HMX−13・セリオ(ToHeart)/セリオ誕生日記念SS/投稿作品/投稿者:Nyawanさん)


 さて、メシも食ったし風呂にも入ったし、あとは寝るだけか。

 ピンポーン――

 …ん?
「誰かいらっしゃいましたねー」
「そうみたいだな」
「わたし見てきます」
「オレが行くよ。マルチ、おまえは早く風呂入ってこいよ」
「でも…」
「いいって」
「はい、ではそうさせていただきますー」

 しかし、誰だ? こんな時間にウチに来るのって。
 あれ?
「セリオじゃねぇか。こりゃまた、めずらしい」
「ご無沙汰いたしております」
 まあまあ、オレ相手に、そんな深々と頭下げなくても。
「突然うかがいまして、申し訳ございません」
「そんなこと気にするなって。どうした? マルチに用か?」
「今日は、折り入って藤田さんにお願いがあって参りました」
「オレに?」
 こりゃ、めずらしいの2乗だな。
「まあ、立ち話も何だから、上がって」
「はい、恐縮です」

 もしかして、セリオと向かい合って座るの、初めてだっけ?
 うーん、オレにお願いってのが、なんか気になるけど。
「で?」
「はい、実は…」
「おう」
「……」
「……」
「……」
 …話が進まねぇ。
 こういう歯切れの悪いセリオって、今まで見たことないような気がするなぁ。
 よし、ここはひとつ。
「何か言いにくいことか? セリオの頼みなら、大抵のことは聞いてやるぜ」
 どうだ? 今まで、何人ものじょしこぉせぇをたぶらかして…じゃなくて、頑ななココロを解きほぐしてきた、このサワヤカな笑顔は。って、自分で言うなよ。
「…では、順を追って説明させていただきます」
「ああ」
「実は、今日2月12日は、私の誕生日なんです」
「え、そうなのか? じゃ、パーティをウチでやりたいとか? そういうんだったらお安いご用だぜ」
「いいえ、そうではなくて」
 あ。もしかしてセリオ、なんか照れてる?
「綾香お嬢様にお聞きしたのですが、誕生日やその他の記念日は、いちばん大切な人といっしょに過ごすのが一般的だとか」
 …え?
「それで、私にとって大切な人といえば…」
 …えええぇ?
 も、も、もしかして、オレ? オレのことかぁ?
「…突然このようなことをお願いに上がるのは失礼だとは思ったのですが、綾香お嬢様が、藤田さんなら快く引き受けてくださるだろうと言われたので」
 綾香、おまえの判断は正しい!
 というより、セリオにここまで言われて断るヤツなんていないと思うぞ、うん。
 しかし、そうだったのか。いやぁ、セリオがオレに気があるなんて。
 ふっ、オレも罪なヤツだぜ。

「で、いかがでしょうか? 藤田さんがご迷惑なら、私も無理を言うつもりはございません」
「迷惑なワケねぇだろ。っつーか、大歓迎だぜ」
「よろしいのですか?」
「もちろん。何なら、このまま朝まで…なんてな。あ、冗談冗談」
 ははっ、これはちょっと言い過ぎたかな?
「いえ、私もできればその方が」
 は?
 今、なんて?
「綾香お嬢様の了承はいただいてますので、藤田さんさえよろしければ、今夜はずっと2人で…」
 …セリオ。
 おまえって。
 なんていいヤツなんだぁーーー!

 今夜はずっとってことは、あんなコトやこんなコトや、
「あ、セリオさん、いらしてたんですかぁ」
「お久しぶりです、マルチさん」
 もしかして、あーんなコトまでしちゃったりして?
「今日はどうされたのですかぁ?」
「実は、……というわけで」
 そんでもって、こーんなコトしてくれちゃったりしたら、うおっ、オレはなんて幸せモノなんだぁ!
「そうなんですかぁ。それはよかったですねぇ」
 …はっ。
「マ、マルチ、いつからそこに?」
 いかんいかん、いつから妄想野郎になっちまったんだ、オレは。
「浩之さん、わたしもうれしいですぅ」
 ん? セリオはともかく、なんでマルチがうれしいんだ?
 ま、細かいことはいいか。
「じゃ、善は急げってコトで。セリオ、オレの部屋でいいな?」
「え? 藤田さんの部屋を使わせていただいてもよろしいのですか?」
「いいに決まってるじゃねぇか」
「私はここで十分だと思っていたのですが」
 ここって、ここ?
 そりゃ、リビングとかキッチンの方が燃えるってヤツもいるだろうけど。
「では、せっかくですからお言葉に甘えて、藤田さんの部屋を使わせていただきます」
 うんうん、オレはその方がいいぞ。集中できるし。
「では、マルチさん、行きましょうか」
「はい」
 …へ?
 マルチも?
 もしかして、…3P?
「では浩之さん、今夜はセリオさんと2人で過ごさせていただきますぅ」
「……」
 …あのぅ、もしもし?
「でも、なんだか照れちゃいますぅ。セリオさんがわたしのこと、いちばん大切な人だなんてー」
「当然です。私にとって、マルチさんは大切なお姉さんじゃないですか」
「あうぅー、そう言っていただけるとうれしいですぅ」
 …ちょっと待ったぁ!
 なんだなんだ? いつからそういう展開になったんだ?
 第一、セリオはオレにお願いがあって来たんじゃないのか?
「でも、藤田さんが理解ある方で安心しました。マルチさんをお借りすることになるわけですから、やはり保護者の方の了承を得られないと」
 つまり、オレにお願いってのは、マルチと2人きりになりたいってのを許してくれと、ただそれだけのことかぁ? 納得いかぁん!
 それに、かわいい女のコ同士で、
「…キミたち、2人でいったいナニをするつもり?」
 事と次第によっては、このオニイサンが許しませんよぉ!
「はい、今夜は朝まで、メイドロボの明るい未来について語り明かしたいと思います」
 …もういい。怒る気も失せた。

 もう、こんな時間か…。
 …はぁ。
 やっぱこんなソファーじゃ眠れねぇ…。
 今頃、盛り上がってんのかねぇ、オレの部屋で。
 そうそう、さっきは言い忘れてたけど。
「ハッピーバースディ、セリオ」
 こうして、セリオの誕生日は、ナニ事もなく過ぎていくのだった…ってとこか?

− お・わ・り −