「超無愛想人参マンドラヒロ」
(Episode:藤田 浩之(ToHeart)/投稿作品/投稿者:羽零さん)
ある日、オレが目を覚ますと…
「な、なんだこれは!」
マンドラゴラになっていた。
妙に布団が重いと思ったぜ。
って、そんな場合じゃない!
これからの人生、どうすんだよ!
まさに植物人間状態…なんちゃって。
…だから!ボケてる場合じゃないって!
う〜む………………
とりあえず、まだ6時だから、寝るか…
ぐ〜〜〜………
……………うう〜ん、今何時だ…?
…7時半か。
そろそろおきねーとな。
制服は…着たまま寝たし、着替える必要ねえな。
んじゃ、かばん持って…
ずしっ!
うおっ!やけに重いな。
教科書とか学校に置いてるはずなのに…
うおおおおおおおおっ!
よし!かばん持ったし、いくぜ!
「浩之ちゃーん!早くしないと、遅刻するよー」
む、あかりのやつ、家の中に入ってるのか?
この匂いは…みそ汁か!相変わらず気がきくなあ。
そう思いながらキッチンに入っていこうとしたとき、
ずで〜〜〜〜〜〜ん!!!
俺は見事にすっ転んでしまった。
「あいててて…」
あかりを見ると、まだみそ汁を作ってる途中だった。
ん?なんか探してるのか?
「困ったなあ…ニンジンがない…」
う〜ん、そういえば、昨日カレー作ったときに使っちまったなあ…
その場に倒れたままそんな事を思っていると、ふとあかりがこっちを見た。
「よ!おは…」
挨拶をするまでもなく、あかりはこちらに歩み寄ると、片手で軽々とオレを持ち上げた。そして、にっこりとして言った。
「ニンジン、あった」
は!そうか!オレ、マンドラゴラになってたんだっけ!
やべえ!このままじゃ料理されちまう!
「あかり!オレだ!」
オレがそう叫ぶと、あかりは周りを見まわして、
「浩之ちゃん?起きたの?」
しかし周りには誰もいない。
「…気のせいかな」
そして、オレに包丁を向ける。
「あかり!やめろ!」オレがもがきながら言うと、
「きゃっ!」
あかりは小さく声をあげて、飛びのいた。
「ひ、浩之ちゃん?」
やっと気付いてくれたようだ。
「そうだよ、オレだ」
「な、なんでニンジンなんかになっちゃったの!?」
「しらねーよ…そんなの。それに、ニンジンじゃねえ。マンドラゴラだ」
「そ、そう…でも、どうするの?」
「とりあえず、元の姿に戻る方法を見つけねーと…」
「そうだね…あ、それだったら、来栖川先輩に聞いてみたら?」
「お!ナイスアイディア!」
「それじゃ、学校に行かないとね」
「おう、じゃ、行こうか」
「あ、待って!」
「?」
「おみそ汁、ニンジンないけど、飲んでって」
「そんな場合じゃ…」
するとあかりは真面目な顔をして、
「だめだよ。朝、何も食べないと、途中でばてちゃうんだから」
本当にそんな場合じゃないと思うがな。
あかりの肩に乗って登校…
なんか情けねーけど、結構いいかも…
って、なに考えてんだよ!オレは!
そんなこんなで学校への道を進んでいると、
「やっほー!あかり!」
げ!この声は志保!
「あ、志保、おはよう」
おめーも普通に応対してるんじゃねーよ!
「なーに?今日はあのグータラ亭主はいないの?」
誰がグータラだ、誰が。
「て、亭主なんて、そんな…」
あかりは顔を赤らめる。
「それに、浩之ちゃんならここに…」
「あ〜ら?あたし、ヒロだなんて言ってないわよ〜
ふ〜ん。やっぱり女房の自覚があったのねえ…」
志保がからかい口調で言う。
あかりはさらに顔を赤らめた。
まったく、こいつは!
朝っぱらから人をバカにしやがって!
「おい志保!人のことからかうのもいい加減にしろよな!」
「へっ!?」
…しまった。つい声出しちまった…
「な、なに?今の声…確かこのへんから…」
志保はあかりの左肩に乗るオレを見つけた。
「な〜に、あかり?このぶさいくなニンジンは?」
こうなったらヤケだ!
「ぶさいくで悪かったな!!」
「わわわ!?」
志保は一瞬、驚いたようだが、その後、ニヤリとして言った。
「…もしかして、あんたヒロ?」
「…そうだよ」
オレはぶっきらぼうに言った。
一呼吸置いて、
「あははははははははははははははははは〜〜〜〜〜!!!!」
志保の笑い声が響いた。
「あ、あんた、ついに人間やめたのね〜!
でも、よりによって、ニ、ニンジン…あはははははははは〜〜〜!!」
「ニンジンじゃねえ!マンドラゴラだ!」
…むなしい主張だった。
その後、オレは散々志保にバカにされながら、学校へと急いだ。
もとい、急いだのはあかりだった。
「おはよう、あかりちゃん、志保」
あかりをちゃんづけで呼ぶこいつは…
「おはよう、雅史ちゃん」
「やっほー!!」
思い思いの挨拶を交わす。
「浩之も、おはよう」
「おせーんだよ。オレはおまけかってーの」
「ごめんごめん」
「ったくよー」
……………………今の、なんか変じゃなかったか?
「おい雅史、お前、なんかおかしいと思わないか?」
「え?何が?」
雅史はいつものさわやかスマイルで答えた。
「この状況を見てだよ」
雅史はうーんと一呼吸置いて、
「あ、そういえば浩之!」
やっと気付いたか…
「今日、体育あるのに、体操服持って来てないね」
ずるっ!
「い、いや、そんなことじゃなくてよー」
「?」
「例えばオレの姿が、ニンジンに見えるとか…」
もうマンドラゴラだろうが、ニンジンだろうが、どうでも良くなった。
「…浩之」
すると雅史は、寂しそうな顔をして言った。
「そんなの、関係ないよ。
ニンジンだろうが、なんだろうが、浩之は浩之だろ?
そんなことで僕たちがどうにかなるって言うの?
僕たち、十何年も一緒にいたじゃないか。
楽しいときも、辛いときも…
いつだって、浩之は浩之のままだよ」
雅史がそう言うと、あかりが加わった。
「うん、そうだよね!どんな姿であっても、浩之ちゃんは、
私の大好きな浩之ちゃんだもんね!」
オレは長年連れ添ってきた幼なじみの言葉に、涙を流した。
「ううっ。ありがとうな、あかり、雅史…」
すると雅史は言った。
「ううん。だって僕たち…友達だろ?」
「あかり、ま、雅史――!!」
感極まって号泣するオレたち。
「…あんたたち、根本的になんかおかしいのよ…」
志保の言葉はオレたち3人には届かなかった。
さあて、来栖川先輩に会わないとな…
きっと、先輩なら元に戻る方法を知ってるはずだ。
オレは放課後、オカルト研究部の部室に向かった。
中庭にさしかかったとたん、
「ニンジンさんニンジンさん、こんにちは!」
「おわっ!」
巨大な女の子が目の前に現れた。
…もとい、実はそんなに大きくはない。
胸も小さいしな。
「ニ、ニンジンさん!」
…心を読まれたようだ。
目の前に現れたのはもちろん、マルチだった。
「ニンジンさん、ひなたぼっこですか?」
「ニンジンじゃねえよ」
「ほえ? おしゃべりするニンジンさんとは、珍しいですぅ」
「だから、ニンジンじゃねえって…」
「ニンジンさんじゃないとすると…あなたはどなたですか?」
「だから、オレだよ」
「?」
「浩之だよ、浩之」
すると、マルチはニ、三秒固まって、
「す、すすすすすすすすみませえ〜〜ん!」
「おわっ!」
いきなり大声で謝り始めた。
「わ、わたし、いつもお世話になってる浩之さんに気付かないなんて…
こんなこと、許される事じゃないです!」
「おいおい、そんなの仕方ねえって。オレがこんなカッコしてるんだからさ」
「いいえ!」
マルチはいつになく頑固だ。
「たとえ浩之さんがニンジンさんになっちゃっても、そのくらい見抜けなければ、メイドロボとして失格です!
わたし…やっぱり、まだ修行が足りません…」
「そんなの気にするなって」
オレはよっ、とマルチの肩によじ登って、頭をなでなでとしてやった。
「あ…浩之さん…」
「マルチは今日もいい子だなあ」
「そ、そんなことないです…」
「いやいや、とってもいい子だぞ。ほら、いい子いい子…」
「あ、ありがとうございます…」
………………………
「はあ〜〜〜〜」
マルチと別れたオレはその場に座りこんだ。
つ、疲れた…
うーむ…元の姿に戻らないと、マルチを満足になでてやる事も出来ないのか…
早くオカルト研究部に行こう…
オレが階段にさしかかったとき、
「琴音ちゃん!いたよ!」
「…やっと見つけました…準備はいいですか?宮内さん」
「ふっふっふ…やっとハンティングができるネ…」
葵ちゃん、琴音ちゃん、レミィの戦闘集団がやって来た。
…すでにもう、やばい。
「ちょ、ちょっと待て!何をする気なんだ!」
すると、琴音ちゃんが不適な笑みを浮かべた。
「今日は、朝から異様な雰囲気を感じ取っていました…
恐らく、物の怪の類がが紛れ込んでいるのではないかと思ってましたが…」
「オレだよ!浩之だよ!」
必死にオレは叫んだ。
「えっ!?藤田先輩?」
葵ちゃんが反応した。
「そうだ、葵ちゃん!」
葵ちゃんは明らかに動揺していた。
多分、琴音ちゃんとレミィとお化け退治でもするつもりだったのだろうが…
葵ちゃんはしばらく考えた後、
「本当に藤田先輩なら、拳を合わせれば分かります!お手合わせお願いします!」
なんじゃそりゃあ〜〜〜〜!!
「ふふふふ…やっとハンティングの時間ネ…」
レミィはオレが誰であろうと、知ったこっちゃないようだった…
「…あ、あの、滅殺です…」
琴音ちゃんはいきなり大技を使ってきた!
必死でよけるオレ。
「とおおおおおお!!!!!」
葵ちゃんはローキックを放ってきた!
ぶおん!
「うわっ!」
直撃は避けたものの、風圧で情けなくもオレの体は吹っ飛んでしまった。
「HEY! FREEZE!」
レミィは矢をつがえている。
殺られる!
そう思った瞬間!
「あんたら…たいがいにしいや!!!」
しゅぱーん!!しゅぱーん!!しゅぱーん!!
小気味いい音が三つ続けて鳴り、
いつの間にか三人がダウンしていた。
その代わりに、三人の前で仁王立ちしている女子生徒がいた。
手にはハリセンを持っている。
そう、保科智子委員長だ。
「何こんなところで騒いでんねん!委員長会議が全然進まへんやろ!」
「で、でも保科さん、妖怪が…」
琴音ちゃんの言葉をかき消すかのような怒号が飛んだ。
「妖怪もようかんもない!!全くあんたらはいい歳して、ゴーストバスターズごっこなんかしてから!!
大体、高校生の自覚っちゅうもんが…」
この隙に、オレはそそくさと退散したのだった。
ふう…やっと文化棟についたぜ…
ここまで来れば、オカルト研究部なんてすぐ…
「きゃっ!」
どさっ!!
「ふげっ!」
オレの上に何かが倒れこんできた。
お、重い…押しつぶされる…
「いったあーい…」
こんな何にもないところで転んだのは…
やっぱり理緒ちゃんだ。
「り、理緒ちゃん、早くどいてくれ…」
「あ、ご、ごめんなさい!」
理緒ちゃんはあわてて体を起こした。
すると、その反動でまたバランスを崩した。
「きゃ…!」
ばたーん!
「ぎゃふっ!」
な、なぜまたこっちに倒れる…
「す、すみませんー!」
またあわてて立ち上がる理緒ちゃん。
よし、今度は横の方によけて…
どすん!
「どわっ!」
………そんな事を十回は続けた。
「はあ、はあ…」
こんなんじゃ体がもたねえぜ…
オレはやっと、オカルト研究部の前に立った。
「―ご苦労様です、浩之さん」
「浩之、良くがんばったわねえ」
「ああ…」
綾香とセリオが部室前で待ちかまえていた。
「…って、なんでお前らがここにいる!?」
「―細かい事は、気にしないで下さい」
「そうそう、いいから、入りなさいよ」
何でこいつら、オレが来る事を知っていたんだ?
部室の中は暗くて、相変わらずただならぬ雰囲気が漂っていた。
「………」
「え?いらっしゃいって?先輩、オレが来る事知ってたの?」
「(こくこく)」
「じゃあ、話が早いや。先輩、頼む!オレを元の姿に戻してくれ!」
「………」
「え?この台の上に乗ってくださいって?…分かった」
台の下には何やらビンが置いていた。
中には、怪しげな色をした液体が入っていた。
「で、先輩、次はどうすればいいの?」
「………」
「目を閉じてじっとしててください?よ、よし…」
オレは言われる通りにした。
―そして…
ぴしっ!
体がふわっと浮いた。
先輩がオレに「デコピン」をかましたのだ。
「うわあああ〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
オレは成すすべも無く台の上から突き落とされ、ビンの中へと吸い込まれていった…
「ねえ〜さん!出来た?」
「(こくこく)」
「―材料がそろって良かったですね」
「しかし、姉さんもやるわねえ。惚れ薬を作ろうだなんて…」
「(ぽっ)」
「―材料にマンドラゴラが必要だとお聞きした時には、どうしようかと思いましたが」
「ま、浩之には悪かったけど、これで姉さんの恋が成就できるなら、本望でしょ!」
「………」
「え?早速飲ませようって?オーケーオーケー!」
「―ところで、どなたに飲ませるおつもりなんですか?」
「(ぽっ)…浩之さんです…」
「………」
「………」
「…どうしたんですか…?」
「…姉さん、浩之は今、惚れ薬の材料にしちゃったじゃない…」
「………」
「………」
「………」
「………あ」
「…あ、ぢゃねーよ」
<後書き>
羽零です。
…壊れてますね。アハハ…
このSSは、以前、Holmes金谷さんが「マンドラゴラ」という
名キャラクターをお作りになって、それに刺激された僕が「RAIN HILLS」の掲示板で
書いた物の完全版です。
いつの間にか、全キャラ登場になってたりする。(^^;
しかし、なんでこんなに結末がダークなのやら…(苦笑)
そして、Holmes金谷さん、長らくお待たせして、本当にスミマセンでした。
こんな下らないもんですが、(笑)お口に合う事を祈っております。
それでは!
10月27日
「Piece of Heart」発売の日に
羽零
<解説?みたいな物>
と、言う事で(笑)。
以前「RAIN HILLS」の掲示板にて羽零さんが展開された、「浩之がマンドラゴラになったら」と言うシチュエーションのSSの完成版を頂きました。
当時、浩之がマンドラゴラになってしまうと言うシチュエーションに、少なからずショックを受けたのですが、今回その結末を頂き、さらにショックを受けてしまいました(笑)。
まさか、こんなエンディングが用意されていようとはねぇ・・・(笑)。
何はともあれ、羽零さん、楽しいSSをありがとうございました〜。
・1999/10/28:HTML化、掲載。