「『井戸端会議』と『寄り道で甘味処』で小咄一つ」
(Episode:HMX−13・セリオ、神岸 あかり、量産型マルチ、HM−12a1・真理(オリジナルキャラ)、来栖川 綾香(ToHeart)
/掲示板掲載SSシリーズ・15)
マルチタイプとセリオタイプが世に出て、はや数年。
最近、街頭で井戸端会議をしているマルチタイプをよく見かけるようになった。
と言うのも、マルチタイプはセリオタイプと違い、サテライトによるデータ転送等の手段を所持していない。
そのため、必然的にマルチタイプ同士の情報伝達手段は「口コミ」と言う事になる。
それがための「井戸端会議」と言う訳だ。
さて、メイドロボットの井戸端会議が珍しくも無くなった、とある日の事。
「浩之さん、今晩の晩ご飯は私が担当ですが、何かご希望でもありますか?」
大学の構内で、ベンチに座って何かの紙束と格闘していた浩之に、セリオが話しかけて来た。
「ん〜・・・そうだなぁ・・・あかりは何がいいと思う?」
「私は、浩之ちゃんといっしょでいいよ」
横で、同じように紙束と格闘していたあかりは、そういってにっこりと笑った。
「・・・お前なぁ・・・。んじゃ、シーフードカレーだな」
「かしこまりました。では、私は全ての講義が終了致しましたので、これから準備に取り掛からせて頂きます」
「おう、頑張れよ〜」
ぺこりと一つおじぎをして、セリオは商店街のスーパーに買い物に出かけるべく、大学を後にした。
商店街に向かう道を歩いて行く途中、セリオは5人の量産型マルチが井戸端会議をしている所に出くわした。
「・・・ご挨拶、して行こうかしら・・・」
近づいて行きながらそんな事を考えていると、井戸端会議をしている5人のうち、一人の量産型マルチがセリオに気がついた。
「あ、せ、セリオさん・・・」
てとてととセリオの方に歩いてくるその量産型マルチ・・・正確には、量産試作機マルチに、セリオは見覚えがあった。
「こんにちわ、真理さん。お久しぶりですね」
「セリオさん、こんにちわ。本当にお久しぶりですね」
「・・・真理さん、そのセリオさんとはお知り合いなのですか?」
と、後ろでセリオと真理の様子を伺っていた量産型マルチの一人が、真理に尋ねて来た。
「あ、こちらのセリオさんは、セリオさん達のお姉さんに当る方です」
セリオのお姉さん・・・当然、HMX−13・セリオの事に他ならない。
「そうでしたか、こんにちわ、セリオさん」
「こんにちわ」
しばらく、そんな感じの挨拶が交わされる。
「ところで、皆さんは何をなさっていたのですか?」
「え、えっと、井戸端会議です」
真理が答える。
「井戸端会議?」
「はい。私たちマルチタイプは、セリオさん達と違ってサテライトサービスによる情報伝達と言う手段を持っていません。そこで、いろいろな情報をお互い交換するのに、こうやってみんなで話をして情報交換をしているんです」
「そうでしたか。うちのマルチさんにも、教えてあげると喜びますね、きっと」
「そうですね。ところで、お姉さんはお元気ですか?」
「はい、マルチさんはいつも元気でいらっしゃいます」
「そうですか。よかったです」
「あら? 真理にセリオじゃないの。こんな所で何やってるの?」
と、そこに綾香が通りがかった。
「あ、綾香お嬢様、お久しぶりです」
これはセリオ。
「今、私の姉妹と、セリオさんと、井戸端会議をしていたのですよ」
これは真理。
「井戸端会議? ふ〜ん、何か楽しそうでいいわね〜」
綾香はそう言って、そこに居る面々を眺め回していたが。
「そうだ、これから私、甘味処に行こうと思っていたんだけど。連れが居なくて寂しいのよね〜。あなたたち、一緒に行かない?」
と、突然そんな事を言いだしてきた。
「あの、綾香お嬢様、私たちは物を食べることは出来無いのですが・・・」
「いいからいいから、雰囲気だけでも味わう事は出来るでしょう?」
「・・・そうですね・・・それでは、お供させて頂きます」
セリオはそう言って、ぺこりとおじぎをした。
「真理、あんたはうちのメイドロボットなんだから、拒否することは認めないわよ」
綾香はそう言って、真理の方を見てにこりと笑った。
「わ、解りました」
「で、真理のお友達の皆さんも、一緒に行かない?」
「「「「え、えっと・・・」」」」
「ほらほら、迷っている暇があったら一緒についてくる! 寄り道なんて、あなた達真面目だからやったことないでしょう? これも経験の一つよ」
綾香はそう言ってにこりと笑うと、残りの量産マルチも引き連れて、歩きだした。
「・・・んで、綾香のせいで晩ご飯の支度がすっかり遅れてしまったと」
「申し訳ございません・・・」
結局、遅くまで話し込んでしまった結果、藤田家の夕食は3時間ほど遅くなる羽目となった。
〜 終わり 〜
最近、仕事場に置いて有るジュースの自販機に、冬の風物詩でもある「缶お汁粉」が入って来まして。
「ああ、季節感あって良いねぇ〜」
等と言いつつ、缶お汁粉を飲んでいましたら、ふと思いついたこんなお話し(笑)。
しかし、メイドロボットを甘味処に連れて行くって言うのも、何か綾香らしくて良いかなぁ、と。
・1999/11/13:加筆修正の後、HTML化、掲載。