「『捨てセリ』で小咄一つ」
(Episode:捨てセリ(量産型セリオ)、HMX−13・セリオ、来栖川 芹香、マンドラゴラ、HMX−12・マルチ、神岸 あかり(ToHeart)
/掲示板掲載SSシリーズ・13)
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ある日の事。
俺がいつものように大学から帰る時に通る公園を抜けると。
そこに、量産型のセリオが箱に入れられて、にゃ〜にゃ〜鳴いて居た。
(イメージ:セリオにネコミミが付いて居て、箱から手だけ出してにゃ〜にゃ〜と鳴いて居る状態(笑)。箱に入って居る「楓猫」みたいな感じかな?(ぉ))
(このイラストは、unziさんに頂きました。ありがとうございました)
・・・違った。
にゃ〜にゃ〜とは鳴いて居ないが、目をうるうるさせて、何かを訴えるようにこっちをじっと見ている。
ふと箱を見ると、「捨てセリです。誰か拾ってやってください」と書いてあった。
・・・おいおいおい!
ちょっと待てよ!
「浩之さん、どうしたのですか?」
と、後ろから聞き慣れた声がした。
うちにいるセリオ・・・「HMX−13」、プロトタイプのセリオだ。
「いや、ちょっと。セリオ、お前の妹が捨てられて居るぞ・・・」
俺はそう言って、セリオに目の前の捨てセリを見せてやった。
「・・・・・・」
セリオはそれを見た瞬間、ぴたっとフリーズしてしまった。
「・・・・・・」
見上げる捨てセリも、俺とセリオを交互に眺めながら、うるうると目を潤ませて居る。
だ、駄目だ、俺はその手の目に弱いんだぁ〜!
そして数分後。
俺の家には、ソファーの上に、バスタオルにくるまって体育座りをして居る捨てセリの姿があった・・・。
「なあ、どうして箱に入れられて、あんな所に置いておかれたんだ?」
俺は、捨てセリ・・・名前がわからないので、仮にそう呼ぶ事にする・・・に、事情を聞いてみようとした。
・・・ところが。
ふるふる。
捨てセリは、目を潤ませたまま、何もしゃべらずにふるふると首を振るだけだった。
「いや、あの、首を振られるだけじゃ解らないんだけど・・・」
ふるふる。
「あの、だから・・・」
ふるふる。
「・・・あの、量産セリオさん?」
ふるふる。
「・・・駄目だ。パス」
俺は、セリオに任せることにした。
「・・・解りました。・・・あの、別に私も浩之さんも、あなたを酷い目に遭わせようとか、そういうつもりは全くありません。だから、何があったのか、教えて頂けませんか?」
そう言うと、セリオは俺がいつもやってやるように、頭を抱きかかえて、優しくなではじめた。
なでなで、なでなで。
「・・・・・・」
初めはちょっと驚いたような顔をしていた捨てセリだったが、そのうちだんだんとうっとりとしたような顔をしてきた。
やっぱり、こいつもなでられると嬉しいんだなぁ・・・。
変な所で俺が感心していると。
捨てセリが、何か物を書くようなジェスチャーをし始めた。
「・・・何だ?」
「・・・紙と鉛筆がほしいのですか?」
セリオがそう言うと、捨てセリはこくこくと頷いた。
「そうか、そう言う事か。だったらそう言えばいいのに。・・・ほら」
俺はそう言うと、捨てセリに紙と鉛筆を渡してやった。
捨てセリは、それを受け取ると・・・。
捨てセリは、紙を受取ると、何やらさらさらと書き始めた。
そして、書きあがった物をオレ達に見せる。
『捨てられたんです・・・』
それ持ってまたうるうるして居るし・・・。
「ちょっと待った。捨てられたって、普通は来栖川のサポートに引き取られるんじゃねぇのか? 犬やネコじゃないんだから」
犬猫でも箱に入れて捨てる奴の気が知れないけどな。
オレは、丁度オレの所に寄って来た、4年ほど前に拾って以来うちに住み着いている、ネコの「芹緒」の頭を軽くなでてやった。
『私、壊れちゃったんです』
「壊れたって、何が?」
『会話系の部分と、サテライトサービス受信部分です・・・』
「お、おいおい、それって・・・お前達にしてみれば、一番重要な所じゃね〜のか?」
オレがそう言うと、隣に座っていたセリオがこくんと頷いた。
「しかし、なら何故サポートに連絡を入れなかったのですか?」
セリオがそう聞くと、捨てセリは、
『サポートに連絡を入れる前に、坊ちゃんに捨てられてしまったので・・・』
と書いて来た。
「坊ちゃん? お前のオーナーか?」
『正確には、私のオーナーの息子さんです』
「なるほど。でも、じゃあ何でその坊ちゃんとやらはお前を捨てたんだ?」
『・・・それは・・・解らないです・・・』
そう書いて、また捨てセリはうるうるして居る。
取り敢えず、セリオが使っているメンテナンスキットに、セリオが捨てセリを連れていき、簡単な診断を始めた。
その間に、オレは長瀬のおっさんに電話をかけた。
『・・・なるほど、話の概要は解りました。では、サポートに連絡してそれに該当するオーナーが居るかどうかを調べさせて置きますよ』
「頼むわ。オレは、この近所でそれらしい人が居ないかどうか探して置くよ」
『お願いします』
「あ、いけね」
電話を置いた瞬間、オレは大変な事に気が付いた。
「いかがなされました?」
それを聞きつけたセリオが部屋から顔を出した。
「イヤ、家で論文書こうと思ってたんだけど、それの資料を大学に忘れて来ちまったんだ。ちょっと取りに行って来るわ」
「かしこまりました」
「悪いけど、オレが居ないあいだ、あいつの面倒を見ていてやってくれねぇか?」
オレはそう言うと、ちらっとメンテナンスキットに横たわる捨てセリを見た。
「解りました。もうすぐマルチさんも帰って来ると思いますので、何とかなるとは思います」
「悪いな。んじゃ、ちょっくら行って来るわ」
慌てて大学に戻ったオレは、講義室から論文用の資料を回収すると、急いで家に戻るべく、玄関を後にした。
と、その時。
くいっ。
「?」
袖を引っ張られる感触。
誰かと思って振り返ると、そこには・・・。
誰かと思って振り返ると、そこには、頭の上にマンドラゴラの奴を載せた芹香先輩が居た。
って言うか、すっかりマンドラゴラが既成事実として体に染みついているオレも何かイヤだけど・・・。
「よお、先輩、マンドラゴラ」
「よう、浩之の兄貴(ニヤリ)」
「・・・」
先輩は、こんにちわと挨拶をした後、何やらぽそぽそとしゃべり始めた。
「え? 急いでいるようにみえますが、どうかしましたかって?」
こくん。
「まあ、オレのうちでちと訳ありでね・・・あ」
そこで、オレはふとひらめいた。
「なあ、先輩、今時間有るか?」
「?」
先輩は首をかしげ、『何でしょうか?』と聞いて来た。
「実は・・・」
オレは、捨てセリの事を話して、捨てセリからオーナーの事が魔法で解らないか聞いて見た。
「何とかなる、らしいぜ」
「そうか、じゃあ悪いけどうちまで来てくれねぇか?」
こくん。
家に帰ると、既にマルチとあかりが帰って来ていた。
「ただいま〜」
「浩之さん、お帰りなさいです〜」
「あ、浩之ちゃんお帰り〜・・・って、来栖川先輩?」
「おう、その捨てセリの事、魔法で見てもらおうと思ってな、来てもらったんだ」
ぺこっ。
「あ、あ、どうもお久しぶりです」
「んじゃよ、さっそくでわりぃけど、上がって見てくれねぇか?」
こくん。
しずしず。
セリオのメンテナンスキットが置いて有る部屋に行くと、まだ捨てセリが寝かされたままの状態になっていた。
「よう、セリオ、そいつの状態、どうだ?」
「あ、浩之さん、お帰りなさい・・・妹が言っていた通り、発声機能とサテライトサービス受信部分に故障が見られます。部品交換を要するので、ここではそれ以上の事は出来ません」
そう言ってうつむいてしまう。
「そっか。ま、安心しろ。強力な助っ人連れて来たから」
そう言って、オレはセリオの頭をぽんぽんと軽く触ってやった。
「助っ人・・・ですか? あ、芹香お嬢様・・・」
ぺこり。
「んじゃ、先輩頼むわ」
こくん。
「・・・Γ・・・δ・・・Ψ・・・ε・・・θ・・・」
先輩とマンドラゴラの唱える呪文の声が部屋の中に流れる。
「・・・・・・」
「え? 解りましたって?」
「おう、そこの鏡に今映すからよ」
そう言うと、マンドラゴラは指をぱちんと鳴らした。
ぶぅん。
鏡に、何かの映像が映し出される。良く見ると、セリオのメンテナンスキットの前で、何か話している親子の姿が映し出されていた。
『・・・って、パパもママも言ってたじゃないか! そんなのイヤだよ!』
『貴宏、話を聞きなさいって!』
『やだやだやだ! 芹姉ちゃんを会社に帰しちゃうなんてやだ!』
『貴宏、パパの話を聞きなさい。芹姉ちゃんは壊れたから、直す為に会社に帰すんだ。貴宏は病気になった時に、何処に行く?』
『・・・病院』
『そうだろう? 芹姉ちゃんも、ちょっと病気になったから、芹姉ちゃんを作った会社に行って、直してもらうんだ』
『・・・そうなの?』
『そうだ。だから、直ったらまた元通りの芹姉ちゃんになって帰って来るから、安心しなさい』
『・・・そ、そうだったんだ・・・うえ〜ん! 芹姉ちゃ〜ん!』
『貴宏、どうしたんだ? また押し入れにでも芹姉ちゃん入れているんだろう? 早く連れて来なさい』
『違うの、違うの! 電話で話していたのを聞いて、芹姉ちゃん捨てられるって、そう思ったから、その前に捨てて来ちゃったの〜!』
『何だって? おい、貴宏、何処に置いて来たんだ?』
『近所の公園・・・うぇ〜ん!』
『よし、早く連れて来るぞ!』
鏡の映像はそこで消えた。
「・・・」
「・・・え? この子のオーナーが公園に向かってるって? そうか、ありがとう、先輩」
「おう、浩之の兄貴、いつも意図的にオレの事忘れてねぇか?」
「・・・ありがとよ、マンドラゴラ」
「なぁに、たいしたことねぇよ(ニヤリ)」
そう言って、マンドラゴラの奴はまたたばこを吹かし始めた。
「じゃあ、浩之ちゃん、その子を連れて、公園に行かないと」
「お、おお、そうだったな。じゃあ、先輩、おれ、そいつ連れてちょっと公園まで行ってくるわ」
「あ、じゃあ私も行くよ」
「私も行きます〜」
「私も行きます」
結局のところ、先輩も一緒になって公園に向かう事になった。
「安心しろ、また捨てる訳じゃないから。お前のオーナーがお前を探して公園にいるから、会わせてやるだけだ」
こくこく。
最初、公園に向かうと言ったら目に涙を浮かべて首を振っていた捨てセリだったが、魔法で見た事を話してやると、やっとついて来てくれる事になった。
「芹姉ちゃ〜ん! 芹姉ちゃ〜ん!」
公園に入ると、さっき鏡から聞こえて来た子供の声が聞こえて来た。
「おーい、そこのガキンチョ! お前の芹姉ちゃんはココに居るぞ!」
オレが声をかけると、
「あっ! 芹姉ちゃん! う、うわ〜ん!」
ガキンチョ・・・貴宏って言ってたっけ・・・は、泣きながら捨てセリの方に走って来て、そのまま抱きついた。
捨てセリもそれをしっかりと受け止める。
「あ、うちのセリオがお世話になったみたいで・・・どうもすいませんでした」
その後ろからやって来た貴宏の両親が、オレの所に来てそう言った。
「いや、別に大したことじゃないですけど。それより・・・」
オレは、捨てセリに抱きついている貴宏の方に向いて、話し始めた。
「おい、ガキンチョ。そのセリオは、お前の大切なお姉ちゃんなんだろう?」
「・・・うん」
「だったら、箱に入れて捨てたりするな。大切な姉ちゃんだったら、お前がちゃんと守ってやらないとだめなんだぞ」
「・・・そうなの?」
「そうだ。お前、男の子だろう? 男の子は、女の子の事を守ってやらなきゃだめだ。解ったか?」
「・・・うん」
とまあ、そんな具合で、捨てセリの騒動は決着を見た。
後日、修理された捨てセリ・・・芹姉ちゃんを連れて、貴宏がオレの所に礼を言いに来たりして居たが。
「・・・浩之さん?」
「ん? どした、セリオ?」
「その、私が壊れても、捨てたりしないですよね?」
「・・・ったりめぇだろう? 大事な奴を、そう簡単に捨てれるかってよ」
オレはそう言って、セリオを抱きしめてやった。
「・・・ありがとうございます」
セリオは顔を真っ赤にしながら、そうお礼を言った。
− 終わり −