「セリオが居る生活。〜まずは現実を見て、生きて行こう〜」
  Episode:HM−13d5・風華(ToHeartオリジナル)/小SSシリーズその2


 かたかたかた。
 かたかたかた。

 6畳ちょいの、しかしそれよりも狭い感じがする部屋。
 ベットには眠るように横たわってる、紅色の髪の毛の少女と、その腕から伸びるケーブル。
 そして、その横で、そのケーブルが繋がってるPCを操作している、俺。


 まあ早い話、セリオを買った訳で。
 流石にこの娘は1世代前と言う事もあってか、中古で手に入った訳だが。
 しかし流石は当時のフラグシップモデル。中古と言えど結構いい値段だった訳で。

 この時代、メイドロボットと言う物も、各メーカーから競う様に発売されていて、今や世間では普通にメイドロボットを連れて歩いている人で溢れかえってる。
 しまいにゃあ学生ですら持ってる位だからなぁ。
 最近の学生は金持ちと言うか何と言うか・・・いや、ひがんでてもしゃあないか。

 そして、今日からは。
 俺もメイドロボットのオーナーだ!
 一緒に買い物にも行きたいし、腕組んで歩いて見たいし、対戦ゲームもしたいし、浴衣着て夏祭りも行きたいし、あ〜んなことやこ〜んな事や、もちろんあ〜んな事まで・・・。

 ・・・おっと、まだ作業中だったっけ。


「・・・でこれで、起動、っと」
 ぽちっとなと、お約束のセリフをいいながら、メンテナンスPCのエンターキーを叩く。
 すると、その横のベットに寝かせて置いたセリオが、ゆっくりと起動して来た。

「−−起動時チェック、一部イエロー。メモリマップの一部にロックがかかっています。新規情報の登録に障害の恐れが・・・」
「あーやっぱりね。まあ中古だからオールグリーンじゃ行かないとは思ってたけど」


 んで、メモリ情報のバックアップをとって初期化とか、メモリの増設とか、まあそんな感じのメンテナンスを一通り終えた所で。


「と、言う事で。君の名前は風華。『風の華』と書いてふうかと読む。ふーちゃんとか、ふーやんとか、その辺のバリエーションも含めて君の愛称って事で」
「−−はい、解りました。それで、ご主人様は何とお呼びすれば宜しいでしょうか?」
「ん。うちの事は、『オーナー』で。さんづけで『オーナーさん』でもおっけ〜」
「−−かしこまりました。ではオーナーさんと呼ばせて頂きます」
「うむ」
 ああ、感動。
 やっぱセリオはいいな〜。
 はにゃーん。
「−−・・・あの、抱きつかれてはにゃーんと言われましても・・・」
「おっといけねぇ」
 ついつい欲望の赴くままに(?)、抱きついてしまったらしい。
「・・・んー。まあ、せっかくだし。もうちょっと」
 そう言って、少し力を強く、抱き締めなおす。
「−−・・・・・・」
 風華は、少しうつむきながらも、きゅっと抱きついて来てくれた。
 ああ、至福の瞬間。


「さて、ふーちゃん。早速だが君には重大な任務を与えよう」
 一通り愛情を確かめあった後(?)、椅子に座りなおした俺はそう切り出した。
「−−重大な任務、ですか。かしこまりました、なんなりと」
 それを聞いて、ふーちゃんも背筋をぴっと伸ばして座りなおす。
 誰だこんな教育したの。いや、コレはコレでいいけど。
「うむ。・・・その、実に言いにくい事なんだけど・・・」
「−−一応、一通りの家事などはこなす事が可能ですが」
「いや・・・その、家事じゃないんだわ」
「−−と、申しますと?」

 実は、ふーちゃんを買った事で、俺の財布は文字どおり空っぽ・・・いや、実はローンを組んでいるから赤字な訳で。
「と言う訳で、非常〜に申し訳無いんだが、ふーちゃんアルバイトをしてくれない?」
「−−・・・・・・」
 何やらふーちゃん、思案顔。
「ん・・・どうかした?」
「−−・・・いえ、その、メイドロボットとしては、オーナーさん以外の方にまでサービス提供を行うのは、いかがな物かと」
「あ〜・・・なるほどね」

 通常、店とかで店員として働いているメイドロボットに関しては、大抵の場合法人登録がされていると聞く。
 しかしそれは、事業者が自分の店で働かせてる場合の話の筈。

「て事で、短期的なアルバイトだから、問題は無いと思うよ。それに、そのバイト先はうちの知り合いだからさ」
「−−なるほど、解りました。私を買って頂いた恩に報いるべく、アルバイトをさせて頂きます」
「うう、スマンねぇ・・・俺が不甲斐ないばかりに」

 はぁ・・・情けない。
 俺も明日から少し仕事頑張るか。


 と言う事で、やや情けないながらも、俺とセリオとの生活が始まろうとしていた。

− 終わり −