「何だって?」
 その連絡を受けた時、私は悪い冗談を聞いてるとしか思えなかった。
「・・・その報告、偽りでは無いんだな?」
「は・・・は、い・・・」
 連絡陸曹は、まだ乱れる息を押さえようと深呼吸を何度かすると、はっきりと言った。
「我が中隊は、中隊宿営地域に置いて正体不明の勢力の攻撃を受け、大きな被害を受けました。中隊長以下、中隊本部は全滅、各小隊も7割が損害を受け、事実上壊滅状態に・・・」
「・・・何と言う事だ・・・」


「明日への道 第1話:引継いだ『物』」
(Episode:HM−13J01・セリオ/架空戦記シリーズ)


 日本と言う国が、自衛隊のPKF参加を決めてから十数年。
 A国に後押しをされるように憲法第9条が改正され、表面上は日本も国連の一員として「軍隊」を外国に堂々と派遣出来るようになっていた。

 無論、その間日本を真っ二つに分けた大論争が起きたのは言うまでもない。
 国会周辺には連日デモ隊と街宣車が溢れ、警察は連日の様に機動隊を投入しなければならない程の騒ぎに発展していた。
 また周辺諸国も、内政干渉とも思える強引な方法にて、日本の憲法改正に強固に反対した。
 しかし時の内閣は、慎重な裏工作を進め、結果的には憲法第9条の改正を賛成多数で可決する事に成功。
 かくして、自衛隊は名実ともに外国への派遣を可能にして行った。


 そして、それから数年後。
 M国にてクーデターが発生。
 当初はM国正規軍が鎮圧を行うものとの予想が出てたが、M国南部地域の独立派の民族がクーデター派に協力、勢いを得たクーデター派はまたたく間に正規軍を駆逐し、M国首都を望むまでに至った。
 だがここで、隣国F国がM国援助に軍隊を派遣した事に寄って、状況は泥沼化の様相を体する事になった。

 ここに至って、ようやくA国主導の元、国連と安全保障理事会が動き出した。
 長年の対話の結果、大統領は国外に出る事で政府軍とクーデター派が合意、それに基づき国連はM国に「国連M国停戦監視団(UNMOF)」を派遣して、停戦合意が履行されているかを監視しつつ、クーデター派の武装解除を進める事になった。
 そして、自衛隊も1個派遣群規模の集団をUNMOFに送る事になったのだ・・・。


 偶然なのかは知らないが、私はUNMOF司令部の方に1個偵察班を伴って来ていた所だった。
 南部地域の偵察命令が出され、私はそれを連絡陸曹に持たせて中隊本部に伝達させ、連絡陸曹が戻って来た所ですぐにも任務に出るつもりで居た。
 ところが、帰ってきた連絡陸曹は、中隊の惨状を私に知らせて来たのだった。
「・・・偵察班、集合!」
 駐輪場地域でバラバラになって休憩していた班員達が、だっと私の前に駆け寄って整列をする。
「・・・諸君に、残念な知らせをしなければならない・・・」
 私は、ゆっくりと、だがはっきりと、連絡陸曹が伝達して来た事項を彼らにも伝えた。
 明らかに、全員が動揺するのが解る。
「班長! コレからどうするつもりですか!?」
 班員の先任陸曹が、私に聞いてきた。
 まあ当然の質問であろう。
「・・・まずは、UNDOF司令部にこの事を連絡し、MPを出してもらいつつ中隊宿営地に帰投する。各人は直ちに車両に搭乗し、いつでも出られる準備をして置くように。質問は?」
「・・・ありません」
「よろしい。では、直ちにかかってくれ」
「諒解!」

 UNMOF司令部でも、この情報は既に伝わっていたらしく、既にK国の騎兵大隊が応援に向かったとの事。
 私はすぐに班を掌握すると、全速で中隊宿営地域に戻って行った。


「・・・これは酷い・・・」
 宿営地に戻って見た物は、破壊の限りを尽くされた跡であった。
「どうやら、攻撃を仕掛けて来た勢力は、小銃だけではなく対戦車ミサイルかそれに類する物を装備していた模様です。・・・恐らく、クーデター派の一部に居ると言う停戦反対派グループかと」
「・・・そうですか」
 既に来ていたK国の騎兵大隊の連絡将校から、そう言う話を聞かされた。
 確かに、建物に寄ってはロケット攻撃を受けないとこんな壊れ方をしない、と思えるような破壊の跡が見て取れた。
「−−あの」
「・・・ん?」
 と、そんな私の所に一人の女性がやって来た。
「君は確か、中隊本部に配属になっていた・・・」
「−−はい、HM−13J01『セリオ』です。中隊長からの遺言を預かっております」

 彼女は正確には人間ではなく、来栖川のメイドロボを極秘裏に軍事用に転用した、全般支援用ロボットである。
 戦闘以外のおよそ全ての任務を一人でこなせるようにと開発され、実験的に我が中隊に配属になっていたという話を聞いた事がある。

「中隊長は、なんとおっしゃっていた?」
「−−はい。『あとは任せた』、と」
「・・・そうか」
 生存者を集めた所、1個小隊に満たない程度の人員しか残って居なく、しかも中隊の高級幹部は私を除いて全員が戦死をしていた。
「−−申し訳ありませんでした、私が付いて居ながら、何もする事ができませんでした」
 と、セリオと名乗った彼女が申し分けなさそうに頭を下げて来た。
「ん? ・・・ああ、気にする事はない。君の任務は戦闘以外の全般支援だ。何もしてないからと言って、自分を攻める必要はない。むしろ、良く生き残っていてくれた」
「−−そう言って頂けると光栄です」
 こう言う状況ならばこそ、彼女の様な優秀なロボットが支援任務で居てくれると言うだけでも、実に心強い物である。
「−−さて、これから如何致します、倉島3尉・・・いえ、倉島中隊長代理?」

− 続く −